CASE 01·精密機械 · ヒンジ部品
新日興(SZS) × Intellicon Solutions
グローバル大手の AI 変革
AI がナレッジ Q&A から
製造プロセスの中核へ
導入前の状況
MacBook を開くとき、AirPods の充電ケースを弾くように開けるとき、数十万回の開閉に耐えてなお精度を保つあのヒンジ機構。その主要サプライヤーが、創業 60 年の新日興股份有限公司(SHIN ZU SHING)です。新日興はノートパソコン用ヒンジで世界最大のサプライヤーであり、全世界で 3,000 件近い特許を持ち、MIM(金属粉末射出成形)、プレス、旋削・切削といった精密工程を垂直統合して、長年にわたり精密機械産業を牽引してきました。
技術の蓄積がこれだけ厚くても、製造業に共通の難題は同じようにあります。数十年ぶんの製造ノウハウをどう保存し、受け継ぐのか。研究開発から製造、品質保証、管理まで広がる膨大なデータを、どうすれば速く引けて実務に使えるのか。新日興が選んだのは、Intellicon Solutions の企業向け AI Agent プラットフォームの導入でした。
目指したこと
- 数十年の製造経験を AI が読めるナレッジベースに変え、技術の断絶を避ける
- 研究開発・製造・品質保証・管理のデータを、その場で検索し突き合わせられるようにする
- 「数」ではなく「現場で定着すること」を軸に、頻度の高い業務課題へ Agent を展開する
- Agent を技術者一人ひとりのデジタルの右腕とし、人材をより価値の高い判断と創造に振り向ける
- AI サーバーの液冷部品、航空宇宙、車載向け精密部品といった新領域に向けて、研究開発と製造の基盤を整える
Intellicon Solutions のアプローチ
Intellicon Solutions は 3 か月のあいだに、全工場・部門横断の規模で AI の適用先を棚卸しし、各部門に向けて数十本の Agent を設計しました。対象は研究開発センター、品質保証部門、複数の製造事業グループ、そして管理本部に及びます。どの Agent も、実在する頻度の高い業務課題に一対一で対応しています。
- 01システム思考での棚卸し:全工場規模で各部門の課題、データの出どころ、判断のロジックを整理し、それに対応する Agent を設計
- 02製造の中核まで踏み込む:ナレッジ Q&A や文書整理でとどめず、トルク計算や焼結品質の判読といった専門工程まで入る
- 03経験の資産化:技術者のノートや Excel ファイル、熟練工の頭のなかに散っていたノウハウを、その場で引けるデジタル資産に変える
- 04人と AI の協働:Agent が技術者のデジタルの右腕となり、繰り返しが多く突き合わせ作業の重い仕事を引き受ける
活用場面:精密製造のバリューチェーン全体を AI 化
- 研究開発センター—ヒンジのトルク計算
- 設計段階でヒンジ機構のトルク特性と部品の組み合わせをすぐに評価でき、過去の実験データや計算式を一つずつ探す必要がなくなり、製品開発の期間が大幅に短縮
- 研究開発センター—グラフ分析
- これまで統計ソフト JMP に頼っていた作業を代替し、減衰率の推移、トルク-角度曲線、箱ひげ図、工程能力分析など十数種類の専門的なグラフに対応。技術者は測定データを渡すだけで可視化結果がすぐ得られます
- 製造現場—製造指示書の仕掛かり追跡
- 生産の進捗と工程の状態を検索でき、現場責任者が複数のシステムを行き来して突き合わせる必要がありません
- 製造現場—焼結品質の分析
- 金属粉末射出成形の要となる工程について、焼結パラメータと品質データの関係を品質管理担当がすばやく読み解けるよう支援
- 製造現場—工具の購買申請分析
- 加工工程の特徴から過去の購買履歴を自動で照合し、最適な工具の仕様と数量を提案。購買が経験則からデータにもとづく判断へ移ります
- 品質保証部—図面仕様の抽出
- 2D の設計図面を読み取り、寸法記入、公差、幾何特性を認識。FAI(初品検査)の寸法リスト作成が数時間から数分に短縮
- 管理本部—社内問い合わせ/通関書類の読み取り/サプライヤー検索
- 社内規程と手続きをその場で検索、輸入通関書類の要点を自動抽出、サプライヤー情報の照合と絞り込みを高速化
主な成果
- Agent 1 本の年間換算 ROI が 85 万台湾ドル近く
- すでに稼働している図面分析 Agent の場合、週に 15 名が利用し、1 人 1 回あたり 4 時間かかっていた作業が 20 分に短縮。週あたり合計で約 55 時間の削減
- 3 か月で部門横断の定着
- 3 か月のあいだに各部門へ数十本の AI Agent を設計し、研究開発・製造・品質保証・管理のバリューチェーン全体をカバー
- 製造の中核が AI 化
- トルク計算、Shaft-Clip(軸部品とクリップ)の組み合わせ分析、焼結品質の判読といった専門性の高い用途が現場で動いており、台湾の製造業における AI 活用のなかでも先を行く水準です
- 経験の継承
- 数十年ぶんの製造ノウハウが、AI でその場に検索・突き合わせできるナレッジベースになり、技術者は誰もが先人の肩の上に立てるようになりました
経営層のコメント
「新日興が 60 年やってこられたのは、精密さへのこだわりがあったからです。ヒンジをつくり、MIM をつくる。部品一つひとつの公差はミクロン単位で見ています。AI の導入も同じ考え方で、派手な機能を求めているのではありません。求めているのは、AI がわたしたちの製造の言葉を本当に理解し、研究開発の設計から生産、品質管理まで、どの工程でも技術者が信頼できる分析と提案を出せることです。EgentHub を選んだのは、数十年の製造経験を AI が読めるナレッジベースに変えられるから。技術者の誰もが先人の肩の上に立てるようにするためです。」
「製造業の AI 活用で肝心なのは、どれだけ先進的なモデルを使ったかではなく、自社のデータがどれだけしっかりしているか、業務の整理がどこまで行き届いているかです。わたしたちが最も重視しているのは数ではなく現場で定着すること。目標は AI Agent が技術者一人ひとりの『デジタルの右腕』になることです。人を置き換えるのではなく、繰り返しが多く突き合わせに手間のかかる仕事を AI に任せ、人材にはより価値のある判断と創造に時間を使ってもらう。それが狙いです。」
パートナーからの評価
「これまで百社を超える企業を支援してきましたが、新日興がいちばん印象に残っているのは、AI 導入に対する準備の良さです。AI を使いたいと考える企業は多いのですが、自社の業務を説明できないことがよくあります。新日興は違いました。どの部門の、どの工程についても、課題とデータの出どころが非常にきれいに整理されていたのです。さらに見事だったのは、AI の使い方がナレッジ Q&A や文書整理のレベルにとどまらず、トルク計算、Shaft-Clip の組み合わせ、焼結品質の判読といった製造の中核まで踏み込んでいたこと。これは台湾の製造業における AI 活用としてもかなり先進的な実践であり、伝統的な製造業が AI を使えるだけでなく、最も深く、最も精密なところまで使いこなせることを示しています。」
これから
新日興はこれからクラウドとオンプレミスを組み合わせた構成を検討し、中核となる製造データと技術資料を社内に留められるようにしていきます。精密製造業にとって知的財産の保護は避けて通れない要件だからです。データの保護が整ったうえで、MCP(Model Context Protocol)によって既存システムとつなぎ、Agent を基幹システムとなめらかに連携するデジタルの仕事仲間にしていきます。
1965 年に精密ばねから始まり、ノートパソコン用ヒンジで世界最大のサプライヤーとなり、いまや世界最先端のテクノロジーブランドの中核サプライチェーンに深く関わるまでになりました。新日興は 60 年にわたり、技術革新で業界の天井を破り続けてきた会社です。そしていま、AI Agent を次の 60 年の競争力の土台と位置づけています。
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